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イスラエルの風
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B.F.P.イスラエル・里親プログラムスタッフ 大坪幸子 2002年3月

雨降るバスの中で
 ある雨の降る朝、フードバンクに向かうバスの中でのことです。

 エルサレム市内を走る路線バスには、向かい合わせになっている座席が何カ所かあり、私はそこに座っていました。あるバス停で、母親と十五歳くらいの息子が乗りました。私の向側の座席が二つ開いているのを見て、母親がここに座ろうと息子を促し、彼女が奥の窓際に、少年は通路側に腰をおろしました。見るからにロシアからの移民者とわかる母子……。母親の硬い表情と、背が高くまつ毛の長い少年の顔が印象的でした。バス停に止まるたびに五人、十人と人々が乗り込み、バスは満員。人いきれで窓ガラスはすっかり曇ってしまいました。

 住宅街を出て、ヘブロン通りと呼ばれるエルサレムの大動脈のひとつに差しかかる途中のことでした。雨のためか、いつにないラッシュでノロノロと走るバス。と、路側帯にあった何かに乗り上げたかぶつかったかで、「バン!」と大きな音がし車体が激しく揺れました。一瞬誰の頭にも「爆弾!」という文字が浮かび、どよめきが上がりました。しかし、すぐに何でもないことがわかり、ほっとする人々の声。ミラーに映る運転手も乗客と目を合わせてにっこり微笑みました。

 ふと見ると、少年が腕を伸ばして母親の肩を抱いています。バスは大渋滞の交差点に向かっています。母子の様子がさっきと違うのに気付いたのはそんな時でした。少年が母親の耳元に何かをささやきながら彼女の肩をさすっています。よく見ると、さっきから窓の方にばかり顔を向けていた彼女の表情がさらに険しくなっており、ほおに涙が光っていました。彼女はぎゅっと口を結んだまま何一つ語りません。少年は何かを語りながら、肩を抱いているその手を伸ばして、彼女が顔を向けている窓ガラスの曇りを拭いました。顔を背けたまま彼を見ようともしない母親。少年はもう一方の手で母親の頬の涙を拭いました。いたたまれなくなって、私も顔を背けてしまいました。何があったというのでしょう……。

失うことの苦しみ
 この母子の光景のためか、私の後ろの席からも鼻をすする音が聞こえてきました。少年はぎゅっと母親の肩を抱いたまま、彼女の胸に顔を半分うずめていました。私の目にも涙が込み上げてきました。声をかけることすらできない、胸を締め付けられるような思いでした。神さまの御翼が、今にもくずれそうなこの二人をそっと包んでいるのが見えるようでした。

 その数日前にフードバンクで知った、爆弾テロで娘の一人を失った家族のことを思い出しました。7人の子どもがいるこの大家族は今、『里親プログラム』で援助を受けています。移民者だけでなく、テロで一家の大黒柱を失った遺族などもBFPは支えています。

 1996年にエルサレムの繁華街で起こった爆弾テロで、この一家は長女を失いました。たとえ何人子どもがいても、一人ひとりがかけがえのない存在であることは言うまでもありません。このとき以来、事業で成功していた父親はすっかり気力を失って何も手につかなくなり、家族を養うことができなくなってしまいました。母親も他の兄弟や姉妹たちも、以来恐怖で街の中や人込みに出かけることができません。それでも5年の歳月を経て、日常生活を取り戻しかけ、娘の一人が街中で友人と待ち合わせをしていたとき、イタリアンレストランで爆弾テロが起きました(昨年8月のことです)。

 
 
 
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