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B.F.P. Japan局長 高田 篤美 2004年5月

◆ある夫婦の破たん
 ナンシーは、本当にかわいそうな結婚生活を送っている。ご主人の和夫は、結構な稼ぎがあるというのに、家にお金を入れない。そのため、子どもたちは十分な栄養を取ることができず、やせ細って弱っている。そればかりではない。彼は暴力を振るうのである。悲しみと苦しみを切々と訴えるナンシーに、近隣住民の誰もが同情を寄せていた。

 ある日、一人の友人が怒りに耐えかねて、この暴虐無人な和夫に詰め寄った。「あなたなんか、人間ではありません。それほどナンシーを虐げて苦しめるなら、いっそのこと、離婚したらいいでしょう!?」と、激しい口調で攻め込む友人に対して、和夫はその重い口を開いた。

 彼の話を要約すると、以下のようになる。和夫とナンシーは国際結婚であったものの、本当に仲の良いカップルで、同棲中はケンカ一つしなかったという。愛し合う二人に、言葉の壁は存在しなかった。しかし結婚の直前、状況は一変してしまった。ナンシーの態度が激変し、「財産は自分一人の物である」と主張し始め、すべてを置いて家から出て行ってほしいと言い始めたのである。あれほど愛らしかったナンシーは、どこへ行ってしまったのか。実は、ナンシーの背後には、彼女を惑わす新興宗教の教祖の存在があることを、和夫は知らなかった。

 財産の名義を変えるように、と詰め寄られた和夫は戸惑った。そして、それを断固拒否すると、妻は家庭内暴力を振るうようになったのである。それも半端な暴力ではなく、包丁を持ち出して、彼を刺すという命にかかわるものであった。男性よりも肉体的にはか弱い女性に対して、手を上げることはできない。しばらくは耐えていた和夫であったが、暴力はどうにも止まず、それどころかひどくなる一方となった。子どもを使ってまで攻め込んでくるナンシーに対して、とうとう和夫も手を上げるに至り、暴力の応酬が始まったのである。財産分与をしてでも和解できるなら、一日でも早くそうしたいと和夫は強く願っていた。しかし、今までの経緯からすると、財産を分与すればするほど争いは激化していくのである。

 この二人を何とか和解させようと、仲介者が幾度となく二人の間に割って入った。一度などは、両者が笑顔で握手をかわすほどに和解したかに見えたが、その話し合いの翌日から、ナンシーの暴力は再開されていたのである。

 話し合いが成立しないのには、大きな理由があった。それは、言葉の壁である。それぞれ別々の言葉で話し、全く違う文化背景の中で成長してきた二人である。共通の言葉をもたないだけでなく、価値観が完全に違うのである。ちょうど日本語と英語で会話が行われているようなもので、相手が何を言っているのか全く分からない。言葉が通じ合わないのだから、話し合いは決して一致を見いだすことはない。

 
 
 
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