◆現代のイスラエルは一神教のイスラム諸国に包囲されている
ところで、世界に多神教の宗教と偶像崇拝の宗教は数限りなくあり、そのルーツもまたさまざまであるが、一神教は、世界広しといえども、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3つしかない。しかも、そのルーツは一つである。すなわち、3つの信仰とも遡れば、今から3900年ほど前にメソポタミアのウルの地に生まれたアブラハムという1人の人に行き着くのだ。それゆえ、たとえばアメリカの大学図書館などでキリスト、ムハマンド(マホメット)、アブラハムという項目を検索すると、アブラハムが一番多いということになる。歴史的に、このアブラハム以外に一神教の発祥元はない、というのは特筆すべき事実だと思う。
まず、ユダヤ教にとってアブラハムは、まさに教祖とされる存在である。ユダヤ人はアブラハムの正妻サラから出た嫡男イサクの流れである。キリスト教にとってはアブラハムは信仰の父であり、クリスチャンというのは信仰によってアブラハムの子孫にされた者ということになる。イスラムでは、彼(コーランではイブラヒーム−以下括弧内はコーランでの名)はまさに純粋な一神教の始祖であり、彼とエジプトの女奴隷ハガルの間から生まれたイシュマエル(イスマイール)の子孫アラブ人が、彼の一神教を純粋に受け継いでいるとされる。
さて、古代は多神教偶像神を奉じる諸民族に囲まれていたイスラエルであるが、今は同じ一神教のイスラム諸国に包囲され、古代同様、民族存亡をかけて戦っている。1900年ぶりに祖国を再建したら、敵は完全に入れ替わってしまった格好だ。エジプト、サウジアラビア、シリア(アラム)、ヨルダン(モアブ)、その背後にイラク(バビロン)、イラン(ペルシャ)など、古代の多神教偶像崇拝王国がきれいにイスラム化した。紀元7世紀、イスラムの教祖ムハマンドは多神教を憎悪し、「剣」をもって中東地域から多神教を駆逐したのである。ムハマンドの多神教に対する態度は徹底したものであった。コーランにはこう記されている。
「多神教徒はまったき汚れそのものである。礼拝所(カーバ神殿)に近づけてはならない。」(コーラン9:28)
「(多神教徒には)4カ月間(神聖月)だけ国内を自由に旅することを認める……しかし、神聖月が明ければ、多神教徒は見つけ次第殺しなさい。捕縛し、追い込み、各所に伏兵を置いて待ち伏せしなさい。しかし、もし彼らが悔い改め、礼拝の義務を果たし、お布施も喜んでするなら、そのときは逃がしてやりなさい。アッラーは情け深く、お赦しになる神である」(コーラン9:2、5)(同9:36)。逃がしてもらえるのはイスラムに改宗した場合のみである。それゆえ、多神教徒が契約を破り、向かってくるなら、「彼らと戦いなさい。アッラーは必ずあなたがたの手で彼らを罰し、彼らを辱め、あなたがたを助けて彼らを討ち、信じる者たちの胸を安らかにしてくださる」(同9:12-14)
かくして、中東から多神教が一掃され、同じアブラハムから出てきたイシュマエルの子孫(と自称する民族)が奉じる、一神教イスラムがイスラエルの最大の敵になった次第である。ただし、エジプト人、イラン人はイシュマエルの子孫ではない。
次号では、3つの一神教の関係、その中でのキリスト教の独自性、三宗教の救済観の違いについて述べたいと思う。 |