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暖かな日差しが降り注ぐ冬の日のエルサレム―――タルヨット地区のインダストリアル・エリア(産業地帯)と呼ばれる地域。交通量が多く、車のガレージや工場が続き、時折、機械や薬品のにおいが風に乗って漂ってくる、あまり気持ちの良い地域ではない。その一角にあるバス停で、とある一団が、わらわらとバスを降車し、目的地を目指して歩き始めた。
先頭を歩くアレクセイは、不安だった。その顔を心配そうに見つめる、5歳になる小さな娘のアナスタシア。小さな左手で、父親の手をぎゅっと握り締め、だまって歩いている。
「移民が、タダで生活物資がもらえる所があるよ」――事の始まりは、ご近所のタチアナおばさんの、その一言であった。タチアナおばさんは、ロシア語の通じるアレクセイを捕まえては、よく身の上話をする。
「あたしも、ロシアじゃ、ひもじい生活をしてたのよ。娘夫婦が聖地に移民し、やがて亭主も亡くなって、寂しい毎日だった。治安も年々悪くなってくるし、頼みの年金は滞るし。……何のために共産主義であんな長い間苦労してきたのか、分からないよ。
娘が『お母さんを一人にはしておけない。ここも住めば天国だ、だからどうしても……』、って言うから、一大決心をして、ここにやって来たんだ。……今はやっと慣れたけど、最初は大変だったさ。何たって、気候がぜんぜん違うよ。まあ、雪があまり降らないのはいいことだね。仕事といえば、ビルやアパートの掃除ばかり……この年の身体にゃ、きつい仕事ばかりだよ。言葉も通じないしね。
そうは言っても、いいこともいっぱいあるさ。でも、ロシア帰りを見下すイスラエル人もいてさ……同胞と言ったって、しょせんは違う人間同士さね。……おまけに毎日、やれ、あそこで銃撃があった、やれ、自爆テロだ、と、物騒な事件ばかり。毎日ラジオの前で、身の縮まる思いがするよ。周りにロシア系の友達が居なかったら、とてもじゃないけど、やっていけなかったね。それに、友だちのスベトラーナがこのBFPってとこを紹介してくれてさ……『渡る世間に鬼はなし』って言うけど、こういうことかねえ」
タチアナおばさんの心情は、移民したてのアレクセイにはよく理解できた。
「いくらタダと言ったって……うちの家族を見てみろよ」 そう、アレクセイは心の中でつぶやいた。立ち止まり、後ろを振り返って見た。妻のナターリヤ。弟のミハイルとセルゲイ。妻の姉夫婦に、その二人の娘も続いている――大家族である。
一族は、先祖の地イスラエルでの生活に大きな希望を抱いてやって来た。ドイツにも、たくさんの友人・知人が移民しているので、アレクセイたちもベルリンの親せきに、移住を勧められていた。しかし一家は、「自分たちはユダヤ人だ、いつか祖国シオンに帰るのが使命ではないか」と、一致団結して、イスラエルへの帰還の道を選んだ。
今年の冬、やっとのことで帰還が成った。お金も持ち物もほとんど持っていなかったが、希望に胸を膨らませていた。ベングリオン空港に第一歩を踏み出した時のあの瞬間……何とも言えない喜びと興奮が、心の中にほとばしり、身体が熱くなったのを、アレクセイは今もありありと覚えている。
しかし……彼らを待っていたのは、厳しい経済状況にある、新しい祖国イスラエルであった。その、先進国並みの物価の高さには驚かされた。この大人数が、どうやってこんな状態で生き延びられるのか? 一家は連日連夜、繰り返し討議を重ねた。「無謀だった」「ロシアに帰るしかない」「明日からどうやって食べていくのだ」――彼らの前に立ちはだかっていたのは、累々たる問題の山であった。
車が行き交う、交通量の多い道路をやっとの思いで渡ったアレクセイ一族。アーニャおばさんに教えられたその場所にやって来た。「BFPイスラエル支援センター」――アレクセイは祈るような思いで、ドアを開けた。不安と期待の入り交じった声で、「こんにちは。電話で予約を入れてきた者たちですが……移民は、ここで支援が受けられると聞いたのですが。」――そう告げた。
窓口に座っていた女性スタッフ。笑顔で、流暢なロシア語で親切に応対してくれる彼女に、アレクセイの心は一気に和み、話を続けた。「恥ずかしい話ですが、今、非常に困っているんです。あなた方の助けを必要としています。」
アレクセイの話を、彼女は親身に聞いてくれた。団体から提供される支援について説明してくれた。アレクセイは、一つの質問を忘れなかった。
「……あのう、毛布も全員分、もらえるのですか?」
女性はにっこり笑って、応えた。「もちろん、全員ですよ」
こうして不安と引き換えに、アレクセイたちに与えられたのは、たっぷりのお菓子!! 家族全員分の毛布。台所用品、それに、ヘブライ語とロシア語の対訳聖書。アナスタシアも学用品セットをもらって喜んでいた。「おうちに帰ったら、これでお絵描きするの」。
アナスタシアのそんな笑顔に、アレクセイも胸が熱くなった。「……ここに来て、本当に良かった」。ここがクリスチャンの団体だということは、アレクセイの心には、驚きと共に、感謝の念として深く残った。まだまだ不安は多い……しかし、今まではなかった一筋の希望の光が、アレクセイの心に差し込んでいた。
こうしたアレクセイ一家のような移民の家族が、毎日のようにBFPイスラエル支援センターを訪れます。BFP移民歓迎プログラムのスタッフが、彼らの対応に当たります。
皆様が愛を込めて送ってくださる一つ一つのギフトが、大きな希望の糧となって、たくさんのアレクセイ一家を救っています。皆様が、こうした援助を通して、移民の人々に注いでくださった良き贈り物は、計り知れない祝福へと変えられているのです。
今日、どこかの郵便局で振り込んでくださった尊い献金が、明日、イスラエルの誰かに笑顔をもたらします。水の上にパンを投げるような、実感の伴わないものかもしれませんが、それが現実なのです。どうぞ引き続き、今日もイスラエルに根付こうと奮闘している移民の人々を覚え、皆様の愛の手を、彼らの上にお差し伸べください。
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